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「原作とちがう」から抜け出せるともっと映画がおもしろくなる

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お気に入りの小説が映画化されると、なるべく劇場に足を運んで観賞します。自分の頭の中で思い描いていた世界やキャラクターが目の前に現れて動き出すのはいつでも感動する瞬間です。劇場の座席についた時、原作を知らないで観に行く映画よりも心がドキドキします。時には映画が制作されている頃から待ち遠しく思うことさえあります。

こんな期待に反して、映画の観賞後はじめに口を衝いて出る言葉が「原作とちがう」であり、ある一定の評価基準だったことがかつてありました。映画が原作通りに描かれていないことをとても残念に思っていたのです。「原作でお気に入りだったあのシーンが映画にはなかった」とか「ああいう描き方では原作者の意図とはかわってしまう」とか言い方は様々でしたが、原作とのちがいには敏感でした。

「でした。」と完全に過去のことのように書きましたが、実は今でも敏感です。正直なところ、これからまたお気に入りの小説が映画化された時に同じように思えるかは自信がありませんが、時に複雑な思いを抱えたとしても今は原作と映画をそれぞれ楽しめるように、できる限り楽しむようにしています。

私はファンタジーの金字塔として知られ、20世紀の文学でもっとも有名な1冊として数えられる「指輪物語」の著者J.R.R.トールキンの本を10年以上、何度も繰り返して読んでいます。「指輪物語」は映画「ロード・オブ・ザ・リング」3部作の原作で、2001年〜2003年(日本では2002年〜2004年)に公開されました。第3部「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」はアカデミー賞11部門を受賞するなど大ヒットしました。そして、現在は「ロード・オブ・ザ・リング」を制作したニュージーランド人の映画監督ピーター・ジャクソンを中心に、同じくトールキンの「ホビット」が映画化され、全3部作のうち第2作目「ホビット 竜に奪われた王国」まで公開されています。

「ホビット 竜に奪われた王国」は世界中では2013年12月に公開されましたが、日本では世界で最も遅い2014年2月公開でした。待ちきれず海外(台湾やイギリスなど)へ観に行ったファンを何人も知っていますし、私はニュージーランドのウェリントンにあるエンバシーシアターで、先行上映を除いて世界でいちばん最初の上映を深夜に観賞してきました。

ウェリントンのエンバシーシアター

1924年に建てられた由緒正しきエンバシーシアター

海外に行ってまで観た映画を、こともあろうか私は観賞後に酷評していました。「もうこれは私の知っている“ホビットの冒険”ではない。」と息巻いていました。こう思うのは「ロード・オブ・ザ・リング」3部作の頃からなので慣れっこではあるのですが、「原作と同じかどうか」を基準に置いて観る映画鑑賞なんてつまらないものだと思います。お気に入りのシーンが映像で再現された時の喜びは何にも代え難いものではありますが。

※酷評した、と書きましたが、映画そのもののことではなく、原作とのちがいに関しての意見ですのでご注意いただきたい部分です。

映画化した作品が原作とちがうことにどうしてこんなに目くじらを立てるのでしょうか。端的に言えば、それだけその作品が自分にとって大切なものであることの裏返しだと考えています。トールキンの作品は私にとって精神の支えで体の一部のようなものです。だから「トールキンの意図とはちがうんじゃない?」ということに過剰に反応することもしばしば。

ですが、映画監督や脚本家は原作者ではないんですよね。稀に原作者が映画制作スタッフとして参加しているケースもありますが、「原作の映画化は映画製作スタッフによる原作の解釈の映像化を観ている」んだ、ということに気がつきました。この視点を持ったらとたんに気持ちが楽になりました。大切なものを曲げられているという被害妄想から解放されたような思いです。被害妄想から来る正義感にかられることもなくなりそうです。

そもそも小説と映像は別ものです。原作の通りに描いたからといって必ず原作の読後感と同じような作品になるわけではないのですよね。不名誉なことに前述の「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」は「最悪のエンディングの映画」ナンバー1になってしまいました。ファンにとって非常に意味のあるエンディングでカットすることがなかったのは英断だったと評価しています。映画で描ききれなかったことも問題だったと思いますが、原作の未読者には意味の伝わりにくいエンディングなのでしょう。

自分が読書して体験した解釈が何にも代え難いものなんだと今は思っています。それは映画の解釈よりも、もっと言うと作者の意図よりも優先されていいものではないでしょうか。作品にして発表したら作者だけのものではなくなるのでしょう。私だけのものではないのと同じように。「原作と映画のちがい」を数えるよりも「映画ではこう解釈しているんだね。でも私はこう思う。」という視点を身につけるほうがずっと気持ちが良くて自分の考えかたを膨らませることができるだろうと思っていますし、読書も映画鑑賞もますます楽しみになりました。